コロナ禍の旅行に求められる感染対策とは?
温泉Biz(温泉地でのワーケーション)を推進する温泉地の感染症対策を感染症専門家 二木先生に聞きました
「温泉地でテレワークがしたいけれど、出かけてもいいの?」「温泉地のコロナ対策は大丈夫?」。コロナ禍の旅行に対し、こうした疑問や不安を感じるのは、当然のことでしょう。単身で出かける場合も、家族や仲間と一緒のときも、安心して温泉地で過ごすために、私たちはどういう点に気を付ければよいのでしょうか。また、迎える側の温泉地に求められる対策とは――。
そこで、温泉Bizを安心して行うためのポイントを、温泉Bizサポーターである、感染症対策専門家
二木芳人先生に伺いました。
- 二木芳人先生プロフィール
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昭和大学 医学部 内科学講座
臨床感染症学部門 客員教授
基本的な感染予防策を行えば、 温泉地への旅は可能
現在の新型コロナウイルスの感染状況を、二木先生はどうご覧になっていますか。
国内は小康状態にあると考えます。ただし、毎日、全国で500~700人の新規感染者あるいは検査陽性者が確認されています。これは決して少ない数ではありませんので、油断は禁物です。
いま、GoToトラベルをはじめ、さまざまな経済活性化策が政府から矢継ぎ早に出されています。こうしたキャンペーンを打ちますと人が動くので、感染者数が増えてしまいます。これは、ヨーロッパを見ていても明らかです。とはいえ、経済を止めるわけにはいきませんので、むしろ重症者あるいはお亡くなりになる方を増やさないための医療提供体制を、いまのうちに徹底して準備することが必要だと思います。
新型コロナウイルスは、私たちの働き方を変えました。多くの企業がテレワークを導入し、職場や自宅から離れて仕事をするニーズも増えつつあると考えます。一方、自粛期間が長かったことから、人々のどこかに出かけたいという欲求も高まっているのではないでしょうか。こうしたなか、温泉Bizでは「温泉地でワーケーションをしませんか?」と啓もう活動をしているのですが、そのうえで感染対策は万全にしなければいけない部分です。温泉Biz利用者が気を付けたい、感染防止対策のポイントを教えてください。
温泉地をはじめ、どこかに出かけること自体が感染を広げるわけではありません。ただ、旅は日常とは違うものですから、普段は感染防止に徹底して努めていても生活圏から離れた場所、非日常の中では、開放感や高揚感からついおざなりになることも考えられます。まずは、どこに出かけても防止策をきちんと取ることに意識を向けることが大事です。
基本的な感染防止対策ですが、(1)人の多いところでは、エチケットとしてマスクをする、(2)手洗いをする、(3)三密を避ける、(4)換気を行う――が挙げられます。これらを常に心がけながら、旅ができるとよいですね。
そして、もう一つ大事なのが、発熱や体調不良の症状が出た場合は旅行を次の機会に回す、という潔さを持つこと。計画したから、楽しみにしていたから、と無理して出かけることのないよう、万が一のときには諦める気持ちが必要です。
旅は目的地に着くまでの時間も楽しみの一つです。移動中の注意点について、アドバイスをお願いします。
不特定多数の人と関わることのない自家用車、レンタカーでの移動がやはり安心ですよね。ただ、公共の乗り物を使う場合でも、上述した基本的な感染対策を徹底し、皆でワイワイと楽しく行きたい気持ちを押さえて少し静かに移動ができれば、さほど気にすることはないと思います。
先日、鉄道会社が「ずらし旅」を提案していました。これは、時間をずらす、旅の視点をずらすことをうたったものですが、三密を避けるうえで効果的です。温泉Bizも平日の旅を促すという意味でコンセプトは同じですから、こうした提案は好ましいですね。
ちなみに、小さな子どもをともなって出かける場合には、特別な配慮は必要でしょうか。
お子さんは旅に出ると、いつもよりも楽しくなって行動範囲が広くなるものですが、親御さんはあまりピリピリせず、普段行っている対策が取れれば大丈夫だと思います。
ガイドライン順守に加え、 施設の特性に応じた対策が大切
ここからはワーケーション利用者を迎える側である、温泉地の取り組みについてお尋ねします。日本温泉協会、日本旅館協会がそれぞれ「新型コロナウイルス対応ガイドライン」をまとめていますが、二木先生がご覧になっていかがでしょうか。
両方とも感染の恐れのあるさまざまな場面を想定したうえで、お客様に対する注意喚起、従業員の方の留意点を詳細にまとめてあります。これらが徹底されていれば、ワーケーション利用者も比較的安心して出かけられると思います。
新型コロナウイルスに対応していくうえで、ガイドラインに加えて気を付けておきたい点はありますか。
大きく二つあります。一つは、ガイドラインの継続的な見直しです。第二波が起きた6月以降も、新型コロナウイルスに関する新しいことが分かってきています。ガイドラインもこうした動きに合わせて刷新していくことが求められます。厚生労働省や地方自治体が発信する情報をよりどころにしつつ、ガイドラインを作るうえで専門家の監修を受けていると思いますので、そういった方にも新しい情報を確認し、都度対応するとよいでしょう。
もう一つは、施設の特殊性を認識することです。医師である私たちも病気を治すためのガイドラインを作っています。ただ、これに沿えば、患者さん全員を治せるわけではなく、その人ごとに少しバリエーションを付けています。これは施設も同じです。場合によっては、他のところにはない工夫が必要でしょうし、ガイドラインを守ったうえで独自の対策を加えることもまた望ましい対応だと考えます。
温泉地では、フロントや食事会場、浴場など、いろいろな場所があります。例えば施設によっては、大広間のような広いスペースを開放し、そこに利用者が集まって仕事をする環境を用意することなども考えられますが、こうした場合に配慮したい具体的なポイントを教えてください。
まずは三密です。不特定多数の人が集まる場所、あるいは利用するものは、感染リスクが高いので、ガイドラインにしたがった運用が大事になります。例えば、温泉地ならではの楽しみは、言うまでもなく温泉への入浴ですが、脱衣場や湯上りのくつろぎスペースなどは、油断するとつい密になりがちですし、設備を介した接触感染も注意しなければなりません。ガイドラインにはこの点にも触れられていますので、それに従って、入浴の時間帯をずらして混雑を避ける、定期的な設備や備品の消毒を心がけるなど、利用者と施設側の双方の心がけが大切だと思います。
そして、意外と盲点になるのが、換気です。最近は飛沫感染、接触感染に加え、エアロゾル感染(空気感染)のリスクが指摘されていますので、常に空気を入れ替え、密閉状態にしないことを心がけると良いでしょう。
さまざまな温泉地、あるいは宿泊施設が懸命な取り組みを行っていますが、そのなかで二木先生の印象に残っている事例はありますか。
食事に関しては、ブッフェを取りやめ、お膳やコースで対応する形式に代わっています。最近ではホテルのレストランで、給仕の方がワゴンを押して各テーブルを回り、お客様のニーズに応じて都度小皿でお出しする、というスタイルを取ったりもするようです。これは、なかなかおしゃれですよね。取り分けておいたものをお客様に出すことよりもスマートですし、お客側にとっても食べたいものを食べるという旅の醍醐味の一つが、こうした工夫によって実現できるのではないでしょうか。
もう一つおもしろいと思ったのが、AIやロボットによる接客です。これはホテルの取り組みでしたが、人対人の接触を避けるためのユニークな試みと感じました。ただ、温泉には独自の文化がありますので、ぜひ人と人とのふれあいも大事にしてほしいですね。人が施すサービスのなかで感染対策を講じたアイデアが出てくることを期待しています。
私自身は、温泉地が生み出した工夫、あるいは模索する最中に、アドバイスを差し上げることが務めだと思っています。相談ごとがあれば、ぜひ協力したいと思います。
最後に、温泉Bizに期待していることを聞かせてください。
働く場所を変えられる、あるいは気分転換をしながら仕事のできるワーケーションは、非常に良い取り組みだと思います。ただ、いままでの日本の生活習慣や風習には、まだ少し馴染まない部分もあります。体験者のレポートも拝見しましたが、まだちょっと特別な方のもの、というイメージです。ですから、ワーケーションが誰でもできることを、ぜひアピールしてほしいですね。たとえば、小さなお子さんがいる家庭や共働きの家庭のワーケーションの様子、その家族がどんなふうに過ごしているのかを紹介していただけると、ワーケーション利用者のみならず、周囲の人のモチベーションにもつながると思います。
あとがき
利用者も温泉地側も基本的な感染症対策を徹底すれば、温泉Bizは可能、と二木先生。周りへの配慮と工夫はコロナ禍の旅には欠かせませんが、働く場所と時間を自由にし、癒しもある温泉Bizを、安心安全を第一に楽しめることを願っています。